伊藤忠ファッションシステム(ifs)が、生活者リサーチシリーズ「Future Articles」の第1弾として『AI時代の消費の楽しみとは?』を発表しました。
2026年1月のNRF(Retail’s Big Show)でキーワードになった「Agentic Commerce」を出発点に、「生活者は財布を預けるほどAIを信用できるのか」「買い物をAIに任せたとき、モノを選ぶ楽しみは消えてしまうのか」という問いを、日本の生活者への定量調査で検証した内容です。
先日ご紹介したA.T.カーニーの調査が欧米の消費者を対象にしたものだったのに対し、こちらは首都圏の20〜60代・約1,000名を対象にした国内データ。海外で見えていた構図が日本でも同じなのか、そして日本の生活者ならではの傾向は何か、という観点で読み解いてみます。
*伊藤忠ファッションシステム「Future Articles Vol.1 AI時代の消費の楽しみとは?」 https://www.ifs.co.jp/lab/FA3
https://storage.googleapis.com/studio-design-asset-files/projects/nBW2GnnZOv/s-1x1_0c980fa1-fe27-48dc-ba68-e00ceb6f2c60.pdf
調査の概要
- 調査主体:伊藤忠ファッションシステム株式会社
- 実施期間:2026年6月29日〜7月2日(WEB調査)
- 対象:一都三県在住の20〜60代男女、計1,062名
- 条件:「世の中の流行や新商品の情報に関心がある」「話題の店や商品をチェックするのが好き」のいずれかに該当する層
ifs独自の世代区分(コロナ世代=21〜29歳、ポスト3.11世代=29〜39歳、ネット黎明世代、ポストバブル世代、バブル世代)で集計されており、世代差がこの調査の主な読みどころになっています。
調査のポイント①:AIの信頼度は8つの情報源のうち7位。ただし上の世代ではインフルエンサーを上回る
まず、買い物の情報源としての信頼度です。全世代で1位は「身近な人のおすすめ」(82.8%)。以下、公式HP/公式EC(79.0%)、店頭スタッフ(75.6%)、店頭の掲示情報(75.0%)、まとめサイト(70.0%)、SNSの公式アカウント(61.3%)と続き、対話型AIによる検索・リコメンドは54.7%で7位。最下位はインフルエンサー等の個人発信(51.1%)でした。
面白いのは、AIとインフルエンサーの順位が世代で逆転する点です。コロナ世代では「インフルエンサー>AI」、バブル世代では「AI>インフルエンサー」。ifsはこれを、上の世代ほど「個人が作った情報より、組織が作った情報を信用する」傾向の表れと分析しています。
一方で若い世代は、店頭スタッフへの信頼が他世代より低く、対話型AIやインフルエンサーと同程度。「専門家だから」ではなく「自分のことを分かってくれている」「感覚が近い」という共感ベースで情報を信頼する比重が大きくなっているようです。
調査のポイント②:「相談相手」としてのAIはすでに浸透している
AIの便利さそのものは、世代を問わず高く評価されています。
- 専門用語や難しい説明を分かりやすく解説してもらうのは便利:75.1%
- 大量の口コミやレビューを要約してもらうのは便利:67.3%
- 目的やシーンに合う商品をリストアップしてもらうのは便利:67.2%
- 複数の商品の比較や整理をしてもらうのは便利:67.0%
さらに若い世代ほど「AIと会話しながら欲しいものを探すプロセスは楽しい」「AIは自分の好みを理解してくれるから信用できる」への同意が高く、AIが「買い物のパートナー」として定着しつつあることがうかがえます。
探索・比較フェーズでのAI利用がすでに日常になっていて、これはA.T.カーニー調査で欧米について示された構図と、まったく同じです。
調査のポイント③:不安は世代共通で約7割。中身は「精度」だけではない
ところが「AIのおすすめで商品を購入することに、なんとなく不安がある」には、どの世代でも7割前後が同意。「AIに購買履歴や好みをすべて学習されるのは抵抗がある」も全世代で7割前後にのぼります。「AIからのおすすめは裏付けがないので信用できない」も65.1%でした。
自由回答で挙がった不安の中身は、情報の正確性や情報流出といった定番に加えて、「自分の思考力の低下」「視野の狭まり」という、AIに頼ること自体への忌避感が目立ちます。「何でも肯定してくるので間違った選択に気付けない」「情報操作されているかもしれない」といった声もありました。
ifsが指摘する通り、精度や情報漏えいの不安は技術の進歩で徐々に解消されるでしょうが、「AIに頼ると自分が退化する」という不安は技術の進歩では解決しません。ここは今後の設計論点として、頭に置いておくべきポイントです。
調査のポイント④:それでも20〜30代の約3割は「決済まで任せたい」
不安はあっても便利さが上回る層は、すでに一定数存在します。「あらゆる買い物を、AIに決済まで済ませてほしい」に「とてもそう思う」「そう思う」と答えた割合は、ポスト3.11世代で31.4%、コロナ世代で30.2%。「こだわりのない日用品はAIに決済まで済ませてほしい」は全体でも42.0%に達しています。
A.T.カーニー調査では「AIに注文を任せてよい」がZ世代29%、ミレニアル30%でした。日本の同世代でもほぼ同じ3割前後という数字が出ており、「比較は任せるが、財布は渡さない。ただし若い世代の3割は渡し始めている」という構図は、国境を越えて共通と見てよさそうです。
注意したいのは、コロナ世代では「任せたい」が3割いる一方で、「そう思わない」「全くそう思わない」も2割強いること。若い世代は一枚岩ではなく、消費に時間も思考も割かない層と、あくまで自分で決めたい層に二極化しつつあります。
調査のポイント⑤:どれだけAIが発達しても「自分で選びたいもの」は、服・食・高額品・贈り物
「今後どれだけAIが発展しても、自分で選んで買いたいもの」を自由回答で聞いた結果、最も多く挙がったのは衣類でした。理由は着心地やフィット感といった実用面に加えて、「自分を表すものだから」「自分のセンスで選びたい」「その瞬間にときめいたものを買いたい」といった、アイデンティティや気分に関わるものが目立ちます。
ほかには、口に入れるものだから自分で確かめたい「食品」、失敗できない「家・車・保険」、相手のために選びたい「贈り物」、偶然の発見が楽しい「本」などが挙がりました。
ifsが提示するキーワード「AIdentity消費」
ifsはこの調査から、AIとの対話を通じて自分のアイデンティティを鮮明にし、それを購買に活かす「AIdentity消費」という兆しを読み取っています。情報源は「個からの情報/個に向けた情報」へ、選ぶものは「個を表せるもの」へ。選ぶ楽しみは消えるのではなく、「買ったモノ・コトでいかに自分らしさを際立たせるか」という方向に向かう、という見立てです。
その上で、AIの関与度合いによって買い物を5つの層に整理しています。
- 衝動買い、気分による買い物(人間主体)
- 五感刺激による買い物
- AIとの対話による買い物 = AIdentity消費
- AIのおすすめによる買い物
- AIによる完全自動購入(AI主体)
層に優劣はないが、自社の商品がどの層と相性がよく、どの層を狙うのかは企業側にも自己分析が求められる。これがレポートの結論です。
EC事業者・ブランドにとっての示唆
この調査から、私たちは3つの示唆を受け取っています。
1. 日本でも「探索・比較はAI」がすでに前提。商品データの整備は待ったなし
決済の委任は3割でも、AIによるリストアップ・比較・要約の便利さは7割近くが認めています。あなたの商品が検討リストに入るかどうかは、AIが商品情報を読めるかどうかで決まる。海外調査で見えていたこの構図は、国内データでも裏付けられました。
2. 「裏付け」を用意できるのはブランド側だけ
「AIのおすすめは裏付けがないので信用できない」が65%。この不安を埋めるのは、AIの精度向上ではなく、AIが根拠として参照できる一次情報の存在です。素材、製造背景、サイズ実測値、返品条件、真正性・・・ブランド自身が構造化して提供した商品データが、AIの推薦に「裏付け」を与え、消費者の不安を下げる。AIdentity消費の時代に「自分らしさに合う」と判断してもらうには、価格とスペックだけでなく、こだわりやストーリーまで機械が読める形になっている必要があります。
3. 自社商品を5層モデルに置いてみる
こだわりのない日用品は「完全自動購入」層に向かい、服や嗜好品は「AIとの対話」層に残る。同じECでも、狙う層によってデータ設計も体験設計も違います。自動購入層なら、エージェントが検証・再注文しやすい正確さと更新頻度が命。対話層なら、AIが「あなたに合う理由」を語れるだけの背景情報の厚みが命。まずは自社の主力商品がどこに置かれるのかを、生活者の目線で見立てるところから始めるべきでしょう。
まとめ
ifsの調査が示したのは、日本の生活者も「AIに相談はする、でも財布はまだ渡さない」という世界共通の現在地にいること。そして、その先にあるのは「選ぶ楽しみの消滅」ではなく、AIと対話しながら自分らしいものを選ぶ「AIdentity消費」だという見立てでした。
AIが個々人の理解者として買い物に関与するほど、「この人らしい」と判断する根拠は商品データの中にしかありません。生活者のAIに選ばれるための準備は、今日の商品データの整備から始まっています。