(Tips)2030年、ECの4分の1はAIエージェント経由に。A.T.カーニー調査が示す「比較は任せるが、財布は渡さない」の壁

世界的コンサルティングファームのA.T.カーニーが、論考『エージェンティック・ペイメント デジタル・コマースの新たなフロンティア(Agentic payments: a new frontier in digital commerce)』を発表しました。

AIエージェントが利用者に代わって商品を探し、比較し、交渉し、検証し、支払いまで完了させる。当ブログでも繰り返し取り上げてきた「エージェンティックコマース」について、決済という最終工程まで踏み込んで分析した内容です。

*Kearney「Agentic payments: a new frontier in digital commerce」 https://www.kearney.com/industry/financial-services/article/agentic-payments-a-new-frontier-in-digital-commerce

調査のポイント①:2030年、全EC取引の約25%をAIエージェントが担う

Kearneyの分析によると、AIショッピング・エージェントは2030年までに全eコマース取引の約25%を占め、年間およそ10兆〜12兆ドル規模のオンライン売上を取り扱う可能性があるとされています。オンラインで買い物をする人の約半数が何らかの形でAIエージェントを利用するようになる、という予測です。

利用意向はすでに顕在化しています。同調査では、買い物客の60%が「今後12ヶ月以内にAIエージェントを使うと思う」と回答し、73%がAIツールに馴染みがあると答えています。

「まだ先の話」ではなく、「利用者側の準備はほぼ整っている」段階に入った、と読むべき数字です。

調査のポイント②:探索・比較フェーズは、すでにAIに移行している

購買ジャーニーの前半では、AIの利用はもう日常になりつつあります。

  • 欧州の買い物客の63%が、ブランド・モデル・価格・レビューの比較にAIを利用
  • 55%が、カテゴリや商品そのものを理解するためにAIを利用
  • 米国では65%が「価格比較はAIを信頼できる」と回答

つまり「何を買うか」を決めるプロセスにおいて、AIはすでに消費者の相棒になっています。あなたの商品が検討リストに入るかどうかは、人がページを見る前に、AIが商品情報を読めるかどうかで決まり始めている――これは当ブログで繰り返しお伝えしてきた通りです。

調査のポイント③:ただし「注文まで任せる」は、わずか14%

一方で、この調査の最も重要な発見は、購買ジャーニーの後半――決済・注文の実行フェーズで信頼が急落することです。

米国で「AIに自分の代わりに注文させてもよい」と答えた消費者はわずか14%。最も許容度が高い世代でも、Z世代で29%、ミレニアル世代で30%にとどまります。

これはKearneyだけの観測ではありません。Mastercardの最新調査でも「AIとの協働で最適な選択肢を探すことに前向き」な消費者が85%いる一方、「自律的に購入を完了させてよい」は約1割。Accentureの調査でも「決済の選択をエージェントに任せてよい」は12%です。各社の調査が同じ構図を示しています。

「比較は任せるが、財布は渡さない」。この非対称性こそが、エージェンティックコマース普及の現在地です。

信頼のギャップは「どこから」埋まっていくか

では、このギャップは永遠に埋まらないのでしょうか。各種調査を重ねて見ると、埋まり方には順番があります。

  1. 低リスク・反復購入から始まる:日用品や食品など、失敗コストが低く購買が反復的なカテゴリでは委任への抵抗が小さい
  2. 「承認ステップ」が普及の鍵になる:消費者が求めているのは完全自動ではなく、「最後にひと目確認してから買う」設計。人が承認する前提なら委任意向は一気に高まる
  3. 世代交代が追い風になる:Z世代・ミレニアルの許容度は平均の2倍以上。5年後の主要購買層では前提が変わる

つまりエージェンティックコマースは「一気に全部」ではなく、低リスクカテゴリ×承認付き委任から段階的に浸透していくと考えるのが現実的です。Kearneyが描く「2030年に25%」という数字は、この段階的な浸透の積み上げとして読むべきでしょう。

EC事業者・ブランドにとっての示唆

この調査から、私たちは3つの示唆を受け取るべきだと考えています。

1. 「選ばれる」勝負はすでに始まっている

決済の委任はまだ14%でも、比較・検討の6割はすでにAI経由です。AIが読めない・比較できない商品データは、この時点で検討リストから外れます。信頼ギャップが埋まるのを待ってから動くのでは遅く、探索・比較フェーズでAIに選ばれる商品データの整備は「今」の課題です。

2. 決済委任の時代には「検証に耐えるデータ」が必要になる

エージェントが支払いまで担う世界では、AIは購入前に「本当にこの商品は条件を満たすか」を検証します。価格・在庫・スペック・返品条件・真正性――これらが構造化され、機械が確認できる状態になっているかどうかが、エージェント経由の売上を左右します。曖昧な商品情報は、人間なら「まあいいか」で買ってくれても、エージェントは通してくれません。

3. 「承認の瞬間」が新しい勝負どころになる

完全自動ではなく「最後に人が承認する」設計が主流になるなら、承認画面に表示される情報=エージェントが要約した商品情報が、実質的な最後の販促面になります。ここで自社商品が正確に、魅力的に要約されるかどうかも、元となる商品データの質にかかっています。

まとめ

Kearneyの調査が示したのは、「AIエージェントがECの主要チャネルになる」という方向性と、「ただし財布を渡す信頼はまだ醸成途上」という現在地のギャップでした。

このギャップは、EC事業者にとっては猶予期間です。決済の委任が本格化する前に、探索・比較・検証のすべてのフェーズでAIに読まれ、選ばれる商品データを整えられるか。2030年の25%を取りにいく準備は、この猶予期間の使い方で決まります。