(Tips)TikTok Shopが変える「買いたい」の生まれ方。3,468億円の消費データから読み解く、2027年の成長市場とコマースの未来

これまでのECは、消費者が「欲しいもの」を検索するところから始まっていました。

商品名を検索し、複数のサイトで価格やレビューを比較し、納得したところで購入する。Google検索、Amazon、楽天市場などは、この購買行動を前提として発展してきました。

しかし、その前提が変わり始めています。

何気なく見ていたショート動画で、これまで知らなかった商品に出会う。クリエイターの実演を見て興味を持ち、LIVE配信で疑問を解消し、そのまま購入する。

「欲しいものを探す」から「欲しいという気持ちが生まれる」へ。

TikTok Shopがもたらす本質的な変化は、単にSNSの中で買い物ができるようになることではありません。これまで検索の前に存在していた、購買欲求が生まれる瞬間そのものをコマースの中に取り込むことです。

2026年6月、TikTokが公表した『TikTok Socio-Economic Impact Report 2026』は、この変化を考える上で興味深いデータを示しています。

今回は同レポートと、2026年に公開されたTikTok Shop日本市場の実績をもとに、2027年以降に成長が期待されるカテゴリーと、ブランド・小売企業に求められる新しいコマース戦略を考察します。

1. TikTokが生み出す消費は3,468億円。もはや単なる認知メディアではない

同レポートによると、2025年にTikTokをきっかけとして生まれた国内の推定消費額は3,468億円に達しました。前年の2,375億円から46%増加しています。

さらに、国内名目GDPへの推定貢献額は6,800億円、雇用への影響は5.2万人とされています。

ここで注意しておきたいのは、3,468億円という数字がTikTok Shopそのものの流通総額(GMV)ではないことです。

TikTokの動画を見たことをきっかけに、外部ECサイトで商品を購入したり、飲食店を訪れたり、旅行の予約をしたりする消費も含まれています。

つまり、この数字が示しているのは、TikTokというプラットフォームが消費者の行動に与えた経済的な影響です。

注目すべきは、その内訳にあります。

カテゴリー2024年2025年
金融・保険476億円1,228億円
個人向けサービス458億円569億円
旅行・レジャー390億円436億円
家具・家電275億円421億円
ファッション・コスメ321億円265億円
飲食料品156億円157億円

出典:TikTok Socio-Economic Impact Report 2026

一般的にTikTokといえば、ファッションやコスメ、若年層向けの商品との相性が良いイメージがあります。

しかし、実際の消費額では金融・保険が最も大きく、家具・家電も大きく伸長しています。一方、ファッション・コスメは前年より減少し、飲食料品はほぼ横ばいでした。

金融・保険の伸びについて、レポートではNISAなどの資産形成に関する情報接触の増加を背景の一つとして挙げています。

これらは、TikTokが若者向けのトレンドメディアから、幅広い世代の情報収集や意思決定に影響するプラットフォームへ変化していることを示唆しています。

ただし、金融・保険の消費額が大きいことと、TikTok Shopで金融商品が売れることは別の話です。

TikTokが消費行動に与える影響と、TikTok Shop内で実際に売れる商品カテゴリーは分けて考える必要があります。

2. TikTok Shopの本質は「発見型コマース」。日本ではLIVE配信が重要な購買接点になる

日本では2025年6月30日にTikTok Shopが始まりました。

その1年後の2026年7月に公開されたTikTokの発表では、2025年6月末から2026年6月末までのTikTok ShopのGMVの70%以上が、動画やLIVE配信などのコンテンツを起点とした購買によるものでした。

さらに注目したいのは、コンテンツ経由のGMVのうち、約60%をLIVE配信が占めていることです。

この数字は、日本のEC市場における重要な特徴を示していると考えています。

日本の消費者は、商品を発見した後、その機能や使用感、信頼性を確認してから購入したいという需要が強いと考えられます。

従来のECでは、この確認行動を商品説明、レビュー、FAQなどの静的なコンテンツが担ってきました。

LIVEコマースでは、商品の使用方法を実演し、質問にその場で回答し、視聴者同士の反応も共有できます。

ある意味で、リアル店舗の接客体験をオンライン上で再構築しているわけです。

また、2026年6月時点のTikTok Shop利用者の年齢構成では、35歳以上が約6割を占めています。TikTok ShopはZ世代だけを対象にした購買チャネルとは言えなくなっています。

今後は、短尺動画で商品を発見し、LIVEで商品への理解と納得を深め、購入するという一連の体験が、より幅広いカテゴリーへ広がる可能性があります。

3. 2027年以降に成長が期待される5つの商品カテゴリー

では、どのような商品がTikTok Shopとの親和性を持つのでしょうか。

重要なのは市場規模だけではありません。

当社では、以下の4つの特性が重要になると考えています。

  • 商品の特徴や使用価値を動画で直感的に説明できること
  • 生活者の悩みや欲求と結びつくこと
  • クリエイターによる第三者視点の紹介が購買判断に影響すること
  • 単発購入にとどまらず、継続購入や関連商品の購入につながること

この観点から、2027年以降に注目したいカテゴリーを整理します。

① ビューティー・コスメ:商品説明から「使用体験の共有」へ

最もTikTok Shopとの親和性が高い領域の一つが、ビューティー・コスメです。

TikTokが公表した2026年上半期のデータでも、GMV上位にはスキンケア、メイクアップ、ヘアケアが並び、フレグランスなどにも高い伸びが見られています。

このカテゴリーの強みは、商品の効果や使用感を動画で表現しやすいことです。

例えば、ファンデーションであれば「夏でも崩れにくいか」、スキンケアであれば「どんな肌悩みに合うのか」といった生活者の具体的な疑問に対して、クリエイターによるレビューや実演が重要な情報になります。

今後は単に商品の特徴を紹介する動画ではなく、生活者の悩みや使用シーンを起点としたコンテンツがより重要になるでしょう。

さらに、スキンケアや日常使いのコスメは継続購入が期待できるため、新規顧客の獲得だけでなくLTVを高める戦略との親和性もあります。

一方で、過度な効果訴求や広告表記の不備はブランドへの信頼を損ないます。クリエイターの表現力と、正確な商品情報の両立が重要になります。

② 食品・飲料・地方特産品:小さなブランドが全国の顧客とつながる

食品・飲料も大きな成長機会を持つカテゴリーです。

2026年上半期のTikTok Shopでは、生鮮・冷凍食品、健康食品、主食や調味料などがGMV上位となっており、飲料にも伸びが見られています。

特に注目したいのは地方の食品メーカーや地域特産品です。

従来、地方の中小メーカーが全国に商品を販売するには、大手流通への卸売、ECモールへの出店、広告投資などが必要でした。

しかし、TikTok Shopでは、生産者自身の言葉や製造工程、商品の背景にあるストーリーが購買のきっかけになります。

例えば、地方の老舗食品メーカーが職人による製造工程を紹介することで、それまで商品を知らなかった消費者に価値を伝えられます。

ここでは、企業規模や広告予算だけでなく、商品の独自性や伝え方が競争力になります。

また、食品はリピート購入と相性が良く、一度獲得した顧客との継続的な関係を構築できることも魅力です。

今後は、地域の作り手とクリエイターが連携した、小規模ブランドの全国展開が一つの成長モデルになると考えています。

③ 家電・生活用品:商品の「必要性」を動画が発見させる

家具・家電は、今回の経済効果レポートでも前年から大きく伸びたカテゴリーです。

2026年のTikTok Shop実績でも、理美容家電、スマートフォン関連用品、生活家電がGMV上位を占め、スマート・ウェアラブルデバイスなどの伸びが報告されています。

この領域は、従来の検索型ECとTikTok Shopの違いが表れやすい市場だと考えています。

例えば、ある便利な掃除用品について、消費者はその商品の存在を知らなければ商品名を検索できません。

しかし、動画で使用前後の違いを見せられると、商品を知っていなかった人にも必要性が伝わります。

つまり、商品そのものの認知を獲得するだけでなく、これまで認識していなかった生活上の問題や改善可能性を発見させることができます。

一方、高額な家電ほど、TikTokで興味を持った後に検索エンジンやAIで比較し、別のECサイトで購入する行動も生まれるでしょう。

このため、TikTok Shop単体の売上だけでなく、指名検索、自社ECへの流入、他モールの売上まで含めた評価が必要になります。

④ ファッション・アクセサリー:商品を探すECから「スタイルを提案するEC」へ

ファッションは、クリエイターやブランドの世界観との結びつきが強いカテゴリーです。

2026年上半期のTikTok Shopでは、レディーストップス、レディースボトムス、バッグがGMV上位となっており、アクセサリー・ジュエリーにも高い伸びが見られています。

ただし、2025年のTikTok起点消費額ではファッション・コスメ全体が前年を下回っています。したがって、すべてのファッション商材が一様に成長するとは考えるべきではありません。

今後の重要な変化は、商品のスペックだけでなく、着用シーンやスタイリングを通じて購買動機が生まれることです。

消費者は「黒いジャケットが欲しい」と検索する前に、クリエイターのコーディネートを見て、そのスタイルを取り入れたいと感じるかもしれません。

2026年にはGap Japanが店舗スタッフをクリエイターとして活用する取り組みも公表されています。

このように、販売員の接客能力やスタイリングの知識が、店頭だけでなくデジタル上の販売資産として活用される動きが進むでしょう。

一方、ファッションにはサイズ違い、返品、在庫、配送などの課題があります。動画による需要創出と、購入後の顧客体験を一体で設計することが重要になります。

⑤ ホビー・コレクター商品・中古品:熱量の高いコミュニティが市場をつくる

もう一つ注目したいのが、ホビー・コレクター商品や中古品です。

2026年上半期のTikTok Shopでは、玩具やホビー・コレクション商品がホーム&リビング領域のGMV上位に入っています。

さらにTikTokは、2026年4月にLIVEオークション機能を導入し、中古品販売を強化する方針も示しています。

この領域では、商品そのものの希少性に加え、その商品に対する知識や熱量が購買に影響します。

トレーディングカード、ヴィンテージファッション、コレクターズアイテムなどは、商品の背景や価値を理解することで購買意欲が高まります。

LIVE配信によって、商品の状態を確認したり、販売者と対話したり、他の参加者の反応を見たりする体験は、こうした市場との親和性があります。

今後は、新品を販売するだけではなく、商品の再流通や二次市場を含めたソーシャルコマースの拡大にも注目すべきでしょう。

ただし、中古品市場では真贋、状態、所有履歴への信頼が重要です。

商品に付随する情報を正確に管理し、買い手が安心して購入できる仕組みを整備することが、流通拡大の前提になります。

4. 物販の外側では、旅行・体験型サービスも変わり始める

TikTokの影響は、物理的な商品の販売にとどまりません。

レポートによると、TikTokを週1回以上利用するユーザーのうち、TikTokで紹介された観光地やスポットを実際に訪れた割合は33.5%に達しています。

さらに、TikTokでは旅行・観光情報から宿泊や体験予約へつなげる「TikTok GO」の展開も進んでいます。

これはTikTok Shopとは別の領域ですが、購買行動の変化という意味では共通しています。

これまでの旅行予約では、行き先を決めた後にホテルや観光施設を検索することが一般的でした。

しかし、魅力的な旅行動画との出会いが、行き先そのものを決めるきっかけになることがあります。

今後は旅行、飲食、美容、レジャーなど、体験価値を中心としたサービスにも、発見型コマースの考え方が広がる可能性があります。

5. コマースの競争軸はどう変わるのか

ここまでの変化を踏まえると、2027年以降のコマースは大きく3つの方向に進むと考えています。

変化①:顕在需要の獲得から、潜在需要の発見・創出へ

従来の検索型ECは、すでに存在する購買意欲を効率よく獲得する仕組みでした。

一方、TikTok Shopでは商品を知らない人に対して、コンテンツを通じて関心や欲求を生み出すことができます。

これまでのSEOや検索広告が「何を検索しているか」を中心に分析してきたのに対し、発見型コマースでは「どんな生活状況にあり、何を見たときに欲求が生まれるのか」が重要になります。

この点は、当社が研究している言語行動分析フレームワーク(LBAF)の考え方とも重なります。

生活者は必ずしも商品の名前やカテゴリーを認識しているわけではありません。

まだ言語化されていない課題や欲求に対して、動画が新しい解決策を提示することで、購買行動が始まります。

今後のマーケティングでは、顕在化した検索需要だけでなく、その手前にある生活者の状況や心理を理解することが、より重要になると考えています。

変化②:広告と販売の境界が曖昧になり、クリエイターが新しい流通機能を担う

TikTok Shopは、広告と販売をより密接に結びつけています。

2026年6月時点のTikTokの発表では、GMV規模が最も大きいセラーグループにおいて、動画経由GMVの90%以上がアフィリエイト経由で創出されていました。

これは特定の上位セラー群における実績であり、市場全体を表す数字ではありません。

それでも、クリエイターが認知拡大だけでなく、実際の販売を担う存在になっていることを示す興味深いデータです。

従来は、メーカーが商品を作り、広告代理店が認知を獲得し、小売企業が販売するという役割分担がありました。

しかし今後は、メーカー、クリエイター、プラットフォームが連携し、商品発見から購買までを一体で提供するモデルが増えていくでしょう。

このとき重要になるのは、クリエイターのフォロワー数だけではありません。

特定の生活者コミュニティに対して、どの程度の信頼や影響力を持ち、商品理解から購入までを促せるかという点です。

クリエイターの価値を、メディアとしてのリーチだけでなく、販売チャネルとして評価する必要が出てきます。

変化③:TikTokによる「欲求の創出」とAIによる「購買判断」が共存する

今後のコマースを考える上で、もう一つ重要なのがAIエージェントの普及です。

生成AIの発展によって、消費者は商品を探し、比較し、自分に合うものを選ぶプロセスの一部をAIに委ねるようになりつつあります。

一方、TikTok Shopは、消費者がまだ意識していなかった欲求を発見させることに強みがあります。

この2つは必ずしも競合するものではありません。

例えば、次のような購買行動が考えられます。

  1. TikTokで知らなかった商品を発見し、興味を持つ
  2. ChatGPTなどのAIに商品の特徴や競合との違いを質問する
  3. AIの比較結果や口コミ、LIVE配信を通じて購入を判断する
  4. TikTok Shopや自社EC、ECモールなどで購入する
  5. 購入後、ブランドとの関係が続き、再購入や買い替えにつながる

これは将来の購買行動に関する仮説ですが、マーケティング戦略としては重要な意味を持ちます。

TikTokが「欲しい」を生み出し、AIが「どれを選ぶべきか」を支援する。

この構造が広がると、企業はSNSで話題化するだけでも、AIに商品情報を正しく理解させるだけでも不十分になります。

生活者の関心を生み出すコンテンツと、AIが比較・推薦できる正確な商品データの両方が必要になります。

6. ブランド・小売企業が今から準備すべきこと

ここまでの変化を踏まえると、企業がTikTok Shopに取り組む際には、単に出店して動画を制作するだけでは不十分です。

当社では、次の3つを重要な取り組みと考えています。

第一に、商品の特徴ではなく、生活者の状況を起点にコンテンツを設計すること。

企業が伝えたい商品情報と、生活者が知りたいことは必ずしも一致しません。

生活者がどのような問題に直面し、何をきっかけに商品へ関心を持ち、どのような不安を解消すれば購入するのか。

こうした行動の連鎖を理解した上で、ショート動画やLIVE配信の内容を設計する必要があります。

第二に、新規顧客獲得だけでなくLTVを中心とした収益設計を行うこと。

TikTok Shopでは、割引やクーポン、クリエイター報酬、広告投資などを通じて売上を拡大できます。

しかし、GMVが伸びることと利益が増えることは同義ではありません。

初回購入の獲得コスト、商品粗利、返品率、リピート率、追加購入、顧客維持コストまで含めた評価が重要です。

また、他のECチャネルから購買が移っただけなのか、新しい需要や顧客を獲得できたのかも見極める必要があります。

第三に、プラットフォームを横断して商品情報と顧客との関係を管理すること。

TikTokで商品を発見した人が、Google検索やAIを通じて比較し、別のECサイトで購入することもあります。

そのため、TikTok Shopへの最適化だけではなく、自社EC、検索エンジン、AIエージェントなど、複数の購買接点に対応した商品情報の整備が求められます。

商品ID、素材、サイズ、使用方法、適合条件、価格、在庫、配送、修理、保証などの情報を整理し、各チャネルで一貫して伝えられる状態をつくることが重要です。

さらに、将来的には購入時点だけではなく、使用、修理、買い替え、再流通まで含めた顧客との関係を設計することが、ブランドの競争力につながると考えています。

7. まとめ:コマースの中心は「売る場所」から「欲しくなる瞬間」へ

TikTok Shopが日本で本格的に普及していく過程で起きるのは、ECチャネルが一つ増えるだけの変化ではありません。

これまで検索や比較を起点としてきた購買行動に、コンテンツとの出会いによって需要そのものが生まれる、新しい経路が加わります。

そして、その需要を生み出す役割を、ブランドだけでなくクリエイターやコミュニティが担うようになります。

一方で、AIによる商品探索や比較が進むことで、消費者が購入を判断するプロセスも変わっていくでしょう。

この変化を踏まえると、これからのコマースに必要なのは、単一チャネルの販売効率を高めることだけではありません。

生活者の欲求を理解し、適切な接点で商品と出会ってもらい、納得して選んでもらい、購入後も関係を継続する。

そうした一連の顧客体験を、プラットフォームの境界を越えて設計することが求められます。

これからのコマースの競争力は、どこで売るかだけではなく、どのように欲求を生み出し、どう選ばれ、購入後にどのような関係を築けるかによって決まる。

TikTok Shopの普及は、その構造変化を加速させる一つの契機になると考えています。