(Tips)政府の成長戦略が名指しした「データのAI-Ready化」。小売・ブランドにとってのAI-Ready資産は、商品データ。

2026年7月21日、内閣官房から「戦略17分野における『主要な製品・技術等』の官民投資ロードマップ」が公表されました。AI・半導体から量子、防衛、宇宙まで、17分野・62項目にわたって官民投資の道筋を示した文書です。

出典:内閣官房「日本成長戦略」官民投資ロードマップ(2026年7月21日) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/pdf/rm2026.pdf

この62項目の中に、派手な項目に挟まれて見落とされがちな、しかしコマースに関わる私たちにとって決定的に重要な項目があります。「データプラットフォーム」です。

政府が公式に認めた「学習データの枯渇」と、次の主戦場

ロードマップのデータプラットフォームの項は、現状認識としてこう述べています。

これまでインターネット上の大量のテキストデータを学習して性能を向上させてきた生成AIにとって、「学習データの枯渇」が目前の大きな問題になっている。今後は、全世界で流通するデータの約6割を占める企業内データ(エンタープライズデータ)の利活用が、産業戦略上の焦点になる。

そのうえで、データをAIが学習・利用しやすい状態に精製する技術を「AI-Ready化」と呼び、組織を超えてデータを連携させる「データスペース」とあわせて、国内データプラットフォーム関連市場を2035年までに5兆円規模(2025年時点では約0.73兆円)に育てる目標を掲げました。

要するに国は、「Web上の公開データを学習する時代は終わりに近づいた。次の競争は、各企業が抱えるデータをいかにAIに使える形に整えるかで決まる」と公式に宣言したわけです。

ただし、この文書の主語は「製造業」。

ここで注意したいのは、ロードマップが想定する主なデータホルダーが製造業だという点です。文書には「製造業の現場データ・ノウハウ等は我が国の産業競争力の基盤」という趣旨の記述が繰り返し登場し、フィジカルAI(AIロボット)の開発に現場データを供給する、という文脈でAI-Ready化が語られています。

一方、バーティカルAIの項で列挙された重点領域を見ると、製造、物流・交通、情報通信、金融、創薬、医療・介護、農林水産、建設、教育、行政、エネルギー……と並ぶ中に、「小売・コマース」は入っていません。

これをどう読むか。私たちの解釈はこうです。

コマース領域のデータ整備には、国の投資は来ない。だからこそ、自ら動いた企業が先行者になる。

政府が投資する製造業のAI-Ready化と、投資されないコマースのAI-Ready化。後者は完全に民間の自助努力に委ねられています。そして幸か不幸か、コマースにはいま、データ整備を急ぐべき差し迫った理由があります。エージェンティックコマースです。

コマースにおけるAI-Ready資産は、商品データそのもの

当ブログで繰り返し取り上げてきたとおり、買い物は「検索して選ぶ」から「AIに任せる」へと移行しつつあります。AIエージェントが利用者に代わって商品を探し、比較し、推薦し、やがて購入まで完結させる世界です。

この世界で何が起きるか。AIが読めない商品は、比較の土俵に載らない。土俵に載らない商品は、存在しないのと同じになる。

考えてみれば、これまでの商品データは徹頭徹尾「人間が読む」ために作られてきました。魅力的な商品画像、情緒的なキャッチコピー、自由記述の商品説明。人の目と心を動かすには優れた形式ですが、AIにとっては構造がなく、属性が抽出しづらく、他商品と比較できない「読みにくいデータ」です。

つまり、ロードマップが製造業に対して言っている「現場データをAI-Ready化せよ」は、コマースの文脈ではこう翻訳できます。

「商品データをAI-Ready化せよ。AIが読め、比較でき、信頼できる構造に作り直せ」

素材、製法、産地、認証、サイズの実測値、利用シーン、他商品との差異——人間向けの売り文句の裏に埋もれているこれらの情報を、構造化された属性として取り出し、機械が検証可能な形で提供する。これがコマース版AI-Ready化であり、エージェンティックコマース時代の入場券です。

「規制対応」から「AIに選ばれる商品データ」へ

手前味噌ながら、当社がこの7月に取得した特許(エージェンティックコマース時代における顧客体験とビジネスモデルに関するもの)は、まさにこの転換点を押さえたものです。

もともと当社は、EUのDPP(デジタルプロダクトパスポート)規制対応、すなわちサーキュラーエコノミーの文脈で商品データの構造化に取り組んできました。素材や製法、リサイクル性といった情報を商品単位で整備するのは、当初は「規制対応コスト」として語られる仕事でした。

しかし途中で気づいたのです。”規制のために構造化した商品データは、そのままAIが読める商品データでもある”と。DPP対応で整備するデータ項目と、AIエージェントが商品を評価するために必要なデータ項目は、大きく重なります。規制対応の副産物だったはずの構造化データが、エージェンティックコマースでは競争力の源泉に化ける。この構造転換を捉えたのが当社の特許です。

今回の成長戦略は、この見立てを国家レベルで裏書きしてくれたと感じています。データの価値は「持っていること」ではなく「AIに使える形になっていること」で決まる。国が製造業に向けて言ったことは、そっくりそのままコマースにも当てはまります。

EC・小売・ブランドが、いま着手すべきこと

では具体的に何から始めるべきか。3点に絞ります。

1. 自社の商品データを「AIの目」で棚卸しする。 自社ECの商品ページをChatGPTなどのAIに読ませて、商品の属性を正しく抽出・比較できるか試してみてください。素材は?サイズの実寸は?競合品との違いは?AIが答えられない項目が、そのままデータ整備の優先リストになります。

2. 「盛る」情報から「検証できる」情報へ軸足を移す。 AIは情緒的な形容詞ではなく、検証可能な事実を手がかりに商品を評価します。認証の有無、数値化されたスペック、一次情報としての産地・製法。人間向けの表現力と、AI向けの構造化情報は、両立させるものであって二択ではありません。

3. 規制対応とAI対応を、別々の仕事にしない。 DPPをはじめとするトレーサビリティ規制への対応と、AIに選ばれるための商品データ整備は、同じデータ基盤の上で一度に設計すべきです。二度やる体力のある会社はありません。逆に言えば、一度で済ませた会社は、規制コストを成長投資に転換できます。

おわりに。

成長戦略のロードマップは、製造業のデータには官民で投資すると宣言しました。コマースの商品データは、その投資対象の外にあります。

しかし、AIが買い物の入口になる変化は、国の投資計画とは無関係に、すでに消費者行動では進行しています。国が製造業に説いた「AI-Ready化」という宿題を、コマースは誰に言われるでもなく、自力で、先に片付ける。その差が2〜3年後の「AIに選ばれる企業」と「選ばれない企業」を分けると、私たちは考えています。

商品データのAI-Ready化について、具体的に相談したい方はお問い合わせよりご連絡ください。