(Tips)AIコマース時代におけるDPP(Digital Product Passport)の役割とは?

製品データの再構築は、AI時代の競争力そのものになる

2026年、潮目が変わりつつある

2025年までは、日本国内でDPP(デジタルプロダクトパスポート)について「言葉は聞いたことがあるけれど、自社にはまだ関係なさそう」という空気が大半でした。
しかし2026年に入り、状況は静かに、しかし確実に動き始めています。EUを中心にサプライチェーン側の準備が本格化し、対象製品ごとの具体的なルール作りが進行。日本でも、これまで様子見だった消費財メーカーや流通・商社の担当者から「そろそろ自社でも検討を始めたい」という声が増えてきました。
この記事では、「そもそもDPPとは何か」「なぜ必要なのか」「企業にとってのメリットは何か」「国内外の動きはどうなっているのか」を、できるだけやさしく整理します。

そもそも、DPPとは何か?

DPP(Digital Product Passport/デジタルプロダクトパスポート) とは、ひとことで言えば 「製品のデジタル版・身分証明書」 です。

その製品が

  • どんな素材でできているか
  • どこで・どう作られたか
  • 環境負荷はどれくらいか
  • 修理・リユース・リサイクルはどうすればいいか

といったライフサイクル全体の情報を、デジタルデータとしてひも付けて管理します。

利用者は、製品に貼られたQRコードやNFCタグを読み取るだけで、これらの情報にアクセスできます。消費者だけでなく、リサイクル事業者や規制当局も同じ情報を参照できる。つまり「製品の透明性」をサプライチェーン全体で担保する仕組み、それがDPPです。

なぜ、いま必要とされているのか?

きっかけはEUの規制です。2024年7月、EUで ESPR(持続可能な製品のためのエコデザイン規則) が施行されました。これはEU域内で流通するほぼすべての製品に環境配慮設計の要件を課す「枠組み法」で、その中核施策としてDPPが位置づけられています。

ポイントは、ESPRが 「枠組み」であって、具体的なルールは製品カテゴリーごとの『委任法(Delegated Act)』で順次決まっていく という設計です。つまり、ある日いきなり全製品に一律で降ってくるのではなく、優先順位の高い分野から段階的に固まっていきます。

2025年4月に公表された「ワーキングプラン(2025–2030)」では、優先的にルール策定を進める製品群として、繊維(とくにアパレル)・家具(マットレス含む)・タイヤ・鉄鋼・アルミニウム などが挙げられました。

ざっくりとした時間軸のイメージは次のとおりです。

  • 2024年7月 ESPR(枠組み法)施行
  • 2025年4月 ワーキングプラン公表、優先製品群が確定
  • 2026年 繊維を含む最初の委任法の公表が見込まれる/大企業向けに売れ残り衣料の廃棄禁止が適用開始
  • 2027年2月 バッテリーパスポートが先行して義務化(DPPの先行モデル)
  • 2027〜2028年頃 委任法の確定後、約18か月の猶予を経て繊維・アパレル等でDPP適用が始まる見込み

注目すべきは、これらの規制が 「EU域内で製品を販売する企業」だけの話ではない という点です。日本のメーカーや商社が、原材料・部品の供給者としてサプライチェーンの一員になっているだけでも、間接的に対応を求められることになります。

企業にとってのメリットは?

「規制対応=コスト」と捉えると、どうしても腰が重くなります。しかしDPPは、見方を変えれば 攻めの武器 にもなり得ます。

1. 規制リスクへの先行対応
対象カテゴリーの委任法が確定してからの準備では間に合わないケースが出てきます。早く動くほど、移行コストを平準化できます。

2. ESG・投資家評価での優位性
製品情報を戦略的に開示できる企業は、ESG評価で有利に立てる可能性があります。DPP対応の有無は、今後の評価軸の一つになっていきます。

3. ブランド価値とトレーサビリティ
「この製品が、どこで、どう作られ、どう循環するのか」を語れること自体が、消費者の信頼につながります。

4. リユース・リペア・リサイクルの収益化
製品データが構造化されていれば、二次流通や修理・回収といったサーキュラー(循環型)事業を新たな収益源に変えやすくなります。

海外と日本、それぞれの動き

海外(EU中心): 上記のとおり、2026年に入りサプライチェーン側の準備が本格化しています。委任法の検討、DPPサービスプロバイダーのルール整備、標準化(GS1 Digital Linkなど)の議論が同時並行で進み、「いつ・何が・どう求められるか」の輪郭が少しずつ見えてきました。

日本: 2025年は、正直なところ目立った動きは多くありませんでした。ただ水面下では、経済産業省を中心に繊維製品の資源循環に向けた議論が継続し、2040年度の資源循環システム構築を見据えたロードマップが描かれています。そして2026年、消費財を含めた現場の「温度感」が確かに上がってきています。EUとつながるサプライチェーンを持つ企業ほど、「他人事ではない」という認識が広がり始めた段階です。

当社の取り組みと、現場で感じていること

レリウ㈱は、この領域の最前線に立つべく、サーキュラーパートナーズ(CPs) および 一般社団法人 資源循環推進協議会 に加盟し、業界の議論や標準づくりの動きに参加しています。

また、

の2つの展示会に出展し、業界の温度感を肌で確かめてきました。

そこで見えてきたのは、「関心を持つ層は確かに存在する。ただ、多くの企業がまだ『ビジネス上のメリットをどう見出すか』を模索している過程にある」というリアルな現状です。規制が背中を押す前に、自社にとっての価値をどう設計するか が、今まさに各社の問いになっています。

AI時代だからこそ、データの再構築が待ったなし

もう一つ、私たちが強く感じているのが AIの存在 です。

普段、様々な企業様のAIを活用した業務プロセス改善を行う中で、生成AIやエージェンティックAIの時代に入り、データ再構築の気運が、これまでにない速さで高まっています。製品情報がバラバラの紙やPDF、属人的な知識のままでは、AIにも、規制対応にも、サーキュラー事業にも活かせません。

DPPは、製品データを構造化し、誰もが(人もAIも)使える状態にする ための共通基盤です。規制対応という入口を超えて、サプライチェーンそのものの再構築は、もはや待ったなしの状況に来ています。

↓ アパレルサプライチェーンの図(これを繋ぎこむ難しさはあるが…)

JOYRIDGE(ジョイリッジ)が目指すもの

レリウが手がける JOYRIDGE は、エージェンティックコマース時代を支えるインフラ事業として、規制やAI時代の波と捉え、データ構造化に取り組んでいます。

「規制だから対応する」のではなく、「製品データが正しく構造化された世界では、ビジネスはこう変わる」という仮説を日々様々な企業様と仮説を重ねております。その未来を、関心を持つ企業のみなさまと一緒に引き続き構築して参りたいと考えています。

さいごに

DPPは、遠い未来の話でも、EUだけの話でもありません。2026年のいま、潮目は確実に動いています。

「自社はどこから手をつければいいのか」「そもそも対象になるのか」。そんな初歩的な疑問からで構いません。まずは情報の整理から、ご相談ください。